あの衝動を、僕は憶えている

高校生の頃、僕はずっと遠くに行きたかった。ここではない、どこか。

毎日はとても退屈で、僕を取り巻いていた小さな世界は、どうしようもなく下らなく見えて。いつも同級生と馬鹿みたいに笑って、気付かない振りしてたけれど。心のどこか底の方では、全てに本当、うんざりしてたんだよ。

僕は大学に行かないことにした。大学に入ってやりたいことなんて、1つもなかった。あの生活の延長線上に、僕はどうしても立ちたくなかったんだ。未練なんて、これっぽっちもなかった。

高校卒業と同時に、僕はフリーターになった。毎日、朝から晩まで、ひたすら働いた。そうして貯金が貯まると、バックパックを背負って2,3月間、どこかを放浪した。帰国すると、またバイトに打ち込み、その繰り返し。

ただ遠くに、行きたかった。フランス、スペイン、モロッコ、インド、オーストラリア…。はじめて見る世界。色んな人にも会った。数ヶ月の旅は、しかし、僕にとって一瞬だった。今思えばこの頃の旅は、結局、自分と向き合うためのものだったように思う。記録もつけず、いつもぼんやりと何かを考えていた。現実から離れた非日常の世界が、他のものから切り離された空間が、あの頃の僕には必要だったんだなと今は思う。そうして高校を卒業してから、フリーターになってからの3年後、僕は大学に入ることに決めた。自分が何を求めているのか、それをようやく理解したように思えたから。



しばらくして、大学に入ってから2回目の春休みに、僕はまた旅に出た。昔のような強い衝動はもうなかったけれど、あの残像のような、残り香のようなものが、僕の中には染み付いていて。けれど、この旅は、フリーターの時のものとは少し違っていた。色々な人が、物が、風景が、目に入るようになった。きっと以前は、自分と向き合うだけで手一杯だったんだと思う。そして、記録をつけるようになった。



だから、この場所にその記録を残しておこうと思う。フリーターの時のはもう書けないけれど、まずはこの前の旅のこと。それから、これから先、きっと行くであろう旅の記録を、ここに残していこうと思う。